
『5日間って言ったじゃない…』
最終的なロックダウンによる隔離生活は4/1~5/31、61日間、PCR検査21回、抗原検査38回。6/1に封鎖解除になるのだが、これが戦績である。当初の計画では5日間の隔離と言われていたので「5日間なら仕方がないな」と考えていたのだが、約束の期日直前でいつも延期、延期、延期、延期……。じわじわ締め付けられると、茹でガエルの如く当初の5日間のことなど忘れてしまい「なぜ終わらないの?」「いつ終わるの?」「もういつでもいいや~」と思考回路がやられてしまう。今振り返ると「5日間って言ったじゃない…」である。誰もが皆、中国政府の巧妙な心中掌握術に嵌められてしまうのである。
これから述べる隔離生活の実態、心情の移り変わりや政府のコロナ対策経緯などは個人的な感覚と感想であり、事実と異なる場合がありますがご容赦願いたい( ̄∇ ̄;)ハッハッハ。
全ての始まり ビックボスがやってきた!
2022年3月中旬、中国では今まで抑え込んできたコロナ感染者が急激に蔓延した。オミクロン株が国内突破された様だ。上海での発生源は私もよく利用したことがあるホテルとされているが、実際のところは定かではない。今まで世界中のオミクロン株の強烈な蔓延を横目に『中国は世界に先駆けてコロナに打ち勝った唯一の国!』と自信満々に振舞ってきたので、特に主だった対策を取らずにいたのだが、想定外に増加してしまった様だ。世界中にコロナに打ち勝った国をアピールする為に採った「ゼロコロナ政策」を掲げている中国政府にとって、面子が潰される事態となった。面子が潰されることは中国では由々しき事態であり、早速上海市長は更迭、北京から格上の偉いさん、いわゆるビックボスが上海に降り立ったのが3月末、全ての始まりだった。

早速コロナ対策の発表、上海を東側と西側の2エリアに分けて各5日間のロックダウンを実施するという発表がされた。3/27~3/31が浦東、4/1~4/5が浦西の5日間のロックダウンが予告。私は浦西だったので、浦東のロックダウン中の映像やニュースを見ながら人口2,500万人を誇る世界的な商業都市の道路や地下鉄、橋などが封鎖される映像を見て驚きを隠せなかった。その時は『マジでやりよった~!!』というのが率直な感想である。そして次なるターゲットは浦西、私の住むエリアの封鎖が始まるのであった。
上海から食材が消える⁉︎ 熾烈な食料争奪戦

ロックダウンが発表されてからは食料調達難に陥る。与えられた猶予は5日間であるが、周囲と比較して遅れをとることを最も嫌がる中国人である。食料調達も激化するのは必至で戦場化するのであった。5日間といえど、全て自炊を覚悟した時、どれだけの食材を確保したら良いのかすら分からない中、いつも行くローカルスーパーに行くと人はごった返し、食材は殆どない。次の店も、また次の店も無い…。
この繰り返しとなると、贅沢に選り好み出来なくなる。思いつく限り手当たり次第、買える食材を買うしかない。流石に見たこともない、調理方法が分からない野菜などには手を出さないが、買える時に買うスタイルが身についた。

買うといっても既に価格は普段の2倍程度になっている。需要と供給のバランス、この一攫千金のチャンスを逃す中国人はいないだろう。しかし、実際には野菜などは基本的に量り売り、勝手に単価を変えられているので、レジで勘定をする時になってから初めていつもの2倍の値段になっていることに気付く。モメる人もたくさんいるが、それでも買うしかないのである。
また、そのレジにたどり着くのに20人くらいの長蛇の列が待っている。日本みたいにレジが混んでるからといって助っ人がすぐ来てレジ対応することなど全くないのが中国。価格は元々野菜など1㎏5元(100円)とか10元(200円)と激安なので、倍になったからといって目くじら立てることもないが、このレジ対応だけはどうにかしてもらいたいものだ。

話は逸れるが、大きな市場を目指して遠出したことで面白い事に遭遇した。アルパカだ!大都市の中心でアルパカを飼っている人が突然家から出てきたので思わず笑ってしまった。たまたま通りかかった女子高生風の方々も気付き、すぐさま撮影会が始まったので私も堂々と撮影出来たが、ちょっとしたカルチャーショック。スーパー金持ちの考えることは分からんw。
隔離生活61日間のリアル 0.0000066%の確率
冒頭でも述べたが実際の隔離生活は4/1~5/31、61日間、PCR検査21回、抗原検査38回。5日間だった予定がズルズルと気付かないうちに2ヶ月間も隔離が続いた。5日間分の貯蓄した食料も底をつき、政府からの支給物資と会社からの物資支援でひもじい食生活を強いられたのが4月。団体購入という新しい購入システムで2~3倍の値段で食材を買いながら凌いだ5月。
部屋から殆ど出ないので運動不足も甚だしい。1日500~1000歩の運動量。普段は意識しなくても5000歩は歩いているのが10分の一に減るのである。ある先輩は高層マンションのエレベーター停止という強制ぶりで、何かあった時などお構いなしで隔離は行われているところもある。
中には体調もおかしくなる人もいるだろうし、鬱になった人も多いと聞く。加えて老人、病人の医者や薬の問題、子供の学校問題など不満が爆発してもおかしくないし、最悪助からない場合もあるだろう。実際に各地で「物資をよこせ〜!」など暴動はそこら中で起こったし、PCR検査時に口論となった老人が急に倒れて死亡したり、5月下旬には上海在住日本人2名が部屋で死亡するとうショッキングなニュースもあった。詳細は公表されていないが、ロックダウンという事の重大さを実感するのである。
同時に自分自身が単身赴任という現実を突きつけられる。もし、今部屋で倒れでもしたら出勤もしていない、管理会社も停止した状態で、気付かれるのに2〜3日は掛かる、そうなるとおそらく手遅れだろう。改めて身が引き締まる思いである。
政府政策 3エリア区分
4月初旬だったか、政府のコロナ管理体制が発表された。エリアを3つの区分に分けて管理するというものだ。行政区単位で細かく管理されるのだが、3つの区分というコロナ感染者発生レベルで分けるという。
封控区 (封鎖区) 隔離エリア 部屋から出るな!
管控区 (管理区) 小地区内 (マンション群の敷地内) なら小地区の定める時間指定内で外出しても良い
防范区 (防犯区) 行政区内なら政府の定める時間指定内(日時指定・3時間)で出ても良い
一言で言うと上記3つなのだがあまり意味がない。なぜならば一番規制が緩い防犯区だとしても小地区内(私の場合は1,500人程度のマンション群)で感染者が1人でも出てしまうと封鎖区に逆戻り。2週間の感染者が出なければ再度、管理区や防犯区に格上げされるのだが、連日のPCR検査で1人でも出ると振出し(封鎖区)に戻る。さながらスゴロクゲームの様で何とも意味のない区分と感じるのである。
不満爆発? 上海と東京都の感染者推移と対応の違い
下記グラフは上海市と東京都のコロナ感染者推移を比較したものである。感染者数は明らかな違いがある。

上海の人口は東京都の1.8倍、面積は2.9倍の規模である。上海は一時2.5万人の感染者となるが、急速に鎮火。5/24では感染者は350名/日と少ない。(5/31は50人程度)一方、東京都は3000~7000人/日を推移していて減る気配はない。ゼロコロナとウィズコロナ政策の違いが明確に出ている様だ。
頭では分かっているものの、こんなにも対応が不公平感満載の中、隔離隔離生活が長期化すると不満が爆発してしまう。「東京は上海より人口も少ない割に感染者も多いが自由なんだろ💢」「なんで我々だけこんな目に遭うんだろ💢」「もしかして世界中で上海だけでは?」などネガティブなことばかり。思わず計算してみたら、上海人口:2,500万人/世界人口:75億=0.0033%。加えて上海在住日本人は約5万人、5万人/2,500万人=0.002%。ということは0.0033%×0.002%…。つまり世界中で2ヶ月間の隔離生活を経験した日本人は0.0000066%。「宝くじに当たる様な確立だな」などと全く生産性のない事ばかりに不満を募らせながら卑屈に日々を過ごすのである。
49日ぶりの外出!上海の街に出てみたら…

防犯区となり、49日ぶりに3時間の外出が許可された。ウキウキしながら出てみたら、ほぼ全ての小売店が封鎖されているので買い物も出来ない。街は荒れ果て廃墟と化し、さながらバイオハザードの様。周辺のローカルスーパー3店や近くの高島屋も当然封鎖されていたのだが、カルフールは開店していたので、私もウキウキしながら並んだのだが、入る直前になって「カルフールで買物できる券が無いと入れない」と言われ、断念…。『何それ~聞いてないよ~』の故上島竜兵状態…。徐々に店が開くのを期待するしかない。
団体購入
少し団体購入の話にも触れておこう。隔離生活が始まった直後にWechat(LINEみたいなもの)で接龙(ジエロン)という団体購入のミニプログラムの案内が来る。このプログラムでマンション1棟の住人(私の場合は170人程度)単位で購入すると、配達料が下がるというシステムである。

例えば『野菜セット3㎏、100元、30セット以上で注文成立』という具合である。もちろん支払いは電子決済で、2~3日後に商材が届く仕組みである。ある友人が団体購入ではなく、個人的にネットでタバコを頼んだら通常150元(3000円)のタバコが250元(5000円)、配達料はなんと320元(6400円)取られたという。ボッタクリもいいところだが、都市全域がロックダウンされている中、配達するということで値段も高く、配達料はバカ高くなるので個別ではなく、この団体購入を選ぶのである。
商売人からすると、この一攫千金の機会を逃すまいと、野菜、果物、牛乳、肉類、ケーキ、パン、洗剤等々毎日あらゆる商品がグループチャットで案内される。お陰で食材は不自由しなくなったが、普段より価格が倍以上なので「なんだかな~」と阿藤快が出てくる心境になるのである。

本当かどうか定かではないが、配達員たちは路上テントで生活しながら、1ヶ月で30万元(600万円)稼いでいる人もいるというニュース記事を見た。普段は配達料5~10元/個のところ、300~350元/個ならあり得るのかな?などと思いながら、猫も杓子も如何なる場合でも拝金主義なのは、いかにも中国らしい。どんな話にも裏があり儲け話は付きものであるw。
ガセネタに踊らされる毎日
また、この頃になると皆さん時間を持て余しながらもヤケクソ気味になるのだろうか、ガセネタが横行する。『〇月〇日から解除される』『配達が自由に出来るようになる』『自由に外に出れる』等々、その殆どが希望的観測か、一部のエリアの情報で、こんな情報で一喜一憂すること十数回。もう確実な発信源から正式発表されるまで何も信じなくなる。
中国のネットで確実というのは正式な機関誌などで正式な政府発表のみである。ローランドではないが「政府か、それ以外か」の世界である。政府以外の権威ある教授や医者などもいるが、いずれにしても政府コントロールが効いているので、迂闊に発言したら即削除されたり、場合によっては拘束されるなど最悪の事態を招くので政府に反対する様な意見は見当たらない。結局政府の発表を待つしかないのである。
こういうことを繰り返してきた背景から、今の中国の文化や思想が形成され最終的に「親族親友以外は信じない」ということなったのだろうなと思う。因みに中国ではご近所さんやママ友などは基本なし。「近くの知らない人より遠くの親族・親友」の世界なのである。
支給物資のありがたみ ケガの功名
食料確保には大きく分けると次の3つがある。①政府からの支給物資 ②会社からの物資支援 ③個人での団体購入である。

支給物資は命の源である。とてもありがたい!とてもありがたいのだが、中国らしい名もない野菜が送られてきたり、鶏一匹が生のまま送られてくることもある。鶏一匹など調理したこともないし、首筋には切り傷があり、とても怖くて触れない。それでもせっかく頂いた命、無駄な殺生をする訳にはいかないので頑張って調理しなければならない。

また、困ったことに団体購入で買った食材や会社からの支援物資などと商材が被った場合は大量在庫となってしまう。ある先輩は卵が115個あると言っていたし、私は豆腐9丁溜まってしまったし、後輩は米が30㎏以上あると言っていた。また、青梗菜やニラなどは傷みやすく大量に処分しなければならないなど在庫管理能力が問われるのである。
5月に入ると支給物資に加えて、団体購入の一般化により食材はそこそこ貯まり、次の問題は調味料が不足して食べたくても調理出来なくなることとなる。実際にはドレッシングとトマトソースは作っていたし、マヨネーズも作ろうと思ったが、無くなるギリギリのところで購入出来たので作らなかった。
新たな気付きがいっぱい
限られた資源と能力の中で自炊しなければならないので、食べたいものは二の次。常に考えなければならないことは次のことである。『食材×腐る×調味料残×調理技量×冷蔵庫空き容量』この鉄則の方程式を頭に入れながら生活をしなければならない。恥ずかしながら、この歳になって初めて主婦(主夫)の皆さんの本当の苦労が分かる。毎日3食×30日(1ヶ月)=90食。1ヶ月に90回も料理を創造しなくてはならない。仕事でこんなに創造しているかと言われたら自信がない…。世の仕事一筋の旦那様方、今すぐ奥様や料理を作ってくれている人へ感謝の気持ちを伝えるべきである。

隔離生活も悪い事ばかりではない。たくさんの気付きを与えてくれた。他人の知らない、自分も知らないジョハリの窓的な発見があった。ひとつは飲みに行けないので必然と暴飲暴食が無くなり、少しは健康的になったこともあるが、2ヵ月お酒を全く飲まなくても問題ないということは新たな発見である。(元々下戸ですが…)。また、何より料理の腕前が爆上がりになったことである。名もない野菜や鶏など、作った事もない料理をたくさん作る機会があったのはとても良い経験となった。まさにケガの功名である。
もちろん、土日とかたまには料理はしていたが、正直に申し上げると、私は生まれて初めて約2ヶ月間もの長い期間、毎食の料理を作った。今は昔と違いクックパッドが何でも教えてくれる。因みに私はクックパッド様と呼んでいるが、材料や調味料の分量、動画まで付いているので、どこの誰でも簡単に料理が出来るのである。何ともありがたく神様の様な存在である。
また、私一人なので自分の味付けができて、失敗したとしても誰にも迷惑を掛けない。思う存分チャレンジできる。次第に長い隔離生活において、料理が一種のモチベーションになるのである。炊飯器とコーラで作る角煮やポテトサラダ、太刀魚の煮付、照り焼きチキン、ブロッコリーのクリーム煮、生トマトから作るナポリタンソース、自家製ドレッシング等々、未だ且つてない経験が出来たことは素晴らしい。老後は主夫となれる自信もついたw。
人生一度の経験として前向き考えよう!
よもや2,500万人の世界的商業都市上海で全域ロックダウンが起こるなんて、想像すら出来なかった。しかも2ヶ月間。卑屈になり辛い時期もあったが、良かったことも新たな発見もあったことは人生の収穫である。
0.0000066%の確率で当った不遇ではあるが、時を同じくしてウクライナ情勢のニュースが頻繁に流れており、ウクライナの人々に比べると天国である。安全で食料もあり、暑さ寒さも凌げる。これを問題というのなら、なんと贅沢な悩みなのだろうとも思う。しかし、鬱になった人も多いと聞いている。私の場合は今振り返ると、同僚や諸先輩の方々とのバカ話によりストレスが発散されていた様に思う。
仕事も間接部門の業務なら、Webが発達したIT社会であり、不便は不便だが感覚的に半分程度はカバーできるだろう。ただ営業、輸出入、モノ創り、工場などは稼働できず、物流がストップとなるので被害甚大。ましては世界的商業都市上海なので世界経済がおかしくなるのも頷ける。

2ヵ月間もの間、物理的には外部と遮断された世界に引きこもりとなったが、世界に1人しか居なくなった様な錯覚体験をすることは一生ないだろう。車も人も全く動いていない大都会上海でシ~ンという音が聞こえて来そうなくらいの静けさを感じることなど、後にも先にも多分無いだろう。こんな体験もロックダウンならではの経験だと思う。
人生一度しか出来ない経験として前向きに考えよう!きっといつかどこかでこの経験は役に立つはず‼
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